第14章 肺は水中で進化した
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鰓で呼吸する陸上生物はいない
生まれてからずっと陸上で暮らしている
実は陸上は恵まれた環境で、水中は過酷な環境だ
生命は海で生まれた
魚類の一部が陸上に進出
この上陸した脊椎動物には肢が4本あったので、四肢動物とよばれる しばらくすると肢が4本生えてきてカエルになる
カエルは鰓を消失しており、肺で空気呼吸をするようになる もっともカエルは四肢動物のなかでは肺が発達していない方なので、かなりの割合を皮膚呼吸に頼っている これらは四肢動物全体から見れば例外で、ほとんどの四肢動物は肺で空気呼吸をしている
つまり、水中でいるものは鰓で呼吸し、陸上にいるものは肺で呼吸している
これにも例外があり、クジラやイルカは水中に棲んでいるのに、肺で空気呼吸をする 中生代(約2億5200万年前~6600万年前)に生きていた首長竜や魚竜も水中に棲んでいたのに、やはり肺で空気呼吸をしていたと考えら荒れている 完全に水中しているのに肺で呼吸している生物は結構いる
ところが、逆は見当たらない
ときどき顔を池か川に突っ込んでエラ呼吸をするような生物はいない
水中で呼吸をするのは大変
水中にも酸素はあるが、空気中に比べるとかなり少ない
最も多いときでも空気中の酸素の約36分の1しかない(25℃の場合)
水は空気よりずっと重いので、水全体における酸素の割合は非常に少なく、取り出すのに苦労する
重さで比べると、酸素は空気全体の約23%、水中では水全体の0.0008%
水中の酸素は量も不安定
空気中の酸素は昼でも夜でも夏でも冬でも約21%(体積比)で変わらない(正確にはわずかに異なる)
水中の酸素は数時間の間に10倍ぐらい変化することも珍しくない
水は空気の約900倍の重さがあるので、なかなか移動しにくい
水中では酸素の量にばらつきが生じやすい
ある場所で酸素を使ってしまうと、他の場所からなかなか酸素が流れてこない
水が重いということは、呼吸するのに多くのエネルギーが必要
大抵の魚は、口から水を入れて、体の横にある鰓裂という穴から水を出す ポンプのような構造で水を無理やり流すヌタウナギのような魚もいるし、前に泳ぎ続けることによって口から鰓裂まで体の中に水を通すマグロのような魚もいる 肺で呼吸する水生動物は、酸素が多い空気を少し利用するだけで、酸素の少ない水を多く利用する魚と互角に渡り合うことができる
その逆の鰓で呼吸する陸上生物は肺呼吸の陸上生物と渡り合うことはできない
こう考えてくると、水中に棲んでいる動物には、鰓だけえでなく肺も合ったほうが便利な気がする
実は本当に肺は水中にいる魚で進化したと考えられている
肺は陸上進出とは無関係に、水の中にいる魚が進化させた
肺は鰾より先に進化した
元はといえば消化管のいち部が膨らんで袋になったもので、実は肺と同じもの
ダーウィンは鰾から肺が進化したと考えていた
しかし、今日では肺から鰾が進化したと考えられるようになった
無顎類と軟骨魚類には肺も鰾もない
シーラカンスの肺には、現在では脂肪が詰まっていて、肺としての役割は果たしていない
条鰭類の中で最初に分岐したと考えられているポリプテルス類は肺を持っているが、その他の条鰭類はたいてい鰾を持っている https://gyazo.com/12e35f9c7af3075ad7c23cae7e12be9c
この考えが正しいことを確かめる方法の一つは、肉鰭類の肺とポリプテルス類の肺を比較すること
共通祖先の肺から受け継がれたものなら、色々な特徴が共通しているはず
実際にいくつもの研究で、受精卵から肺が発生していくプロセスや、肺の形成に関わる遺伝子などが共通していることが確認された
したがって、肺が硬骨魚類の共通祖先で進化したことは、確実だと考えられる
肺が硬骨魚類の共通祖先で進化したことは確かだが、もしかしたら肺の起源はもっと古いかもしれない
デボン紀後期(3億8300万年前~3億5900万年前)に生息していたボスリオレピスはとても繁栄した魚の一つで、世界中に生息していた このボスリオレピスは肺のような構造を持っていた可能性がある
ボスリオレピスは板皮類というグループに分類されるが、これは軟骨魚類に近縁なグループだと考えられている したがって、もしボスリオレピスが肺を持っていれば、肺の起源はなコツ魚類と硬骨魚類の共通祖先まで遡ることになる
しかし、現生の軟骨魚類からは肺があった証拠が見つからないので、ボスリオレピスが肺を持っていたことを疑う研究者もいる
なぜ肺が進化したのか
脊椎動物が陸上に進出するためには、肺だけでなく肢も必要である
かつては陸上進出した時点で、肺と肢はほぼ同時に進化したと考えられていた
肢が進化した約3億6500万年前には、すでに川や池などの淡水にも魚が棲んでいた
浅い川やは酸欠になりやすいので、そのために肺が進化したと考えられていたのである
肺が進化した時代と脚が進化した時代はかなりずれている
肢が進化したのは、条鰭類と肉鰭類が分かれた後で、肉鰭類の系統だけで進化した
一方、肺は遅くとも条鰭類と肉鰭類が分かれる前には進化していた(一説では約4億2000万年前)
まず肺が進化し、それから肢が進化し、その後で脊椎動物の陸上進出が始まった
棘魚類という絶滅したグループは、かつては軟骨魚類に含める意見もあったが、最近ではむしろ硬骨魚類に近縁で、肺を持っていたと考えられるようになった もしそれが正しければ、肺の起源は棘魚類と硬骨魚類の共通祖先まで古くなる(一説では約4億3000万年前)可能性もある
化石記録によれば、初期の硬骨魚類や棘魚類は遊泳性の逆なで、沖合の海に住んでいたと考えられている
ということは、肺は外洋で進化した可能性が高い
しかし、川や池に比べれば、外洋は酸欠になることが少ない環境だ
魚の心臓は酸素不足になる
魚は心臓から血液を、鰓に送り出す
鰓で酸素を取り入れた血液は、全身を回って体中の細胞に酸素を届ける
そして再び心臓に戻ってくる頃には血液に酸素は残っていない
心臓はとても激しく動き続ける器官なので、とても多くの酸素を必要とする
速く泳げば泳ぐほど、事態は悪化する
マスなどの肺を持たない魚が、あまり速く泳ぎすぎると数分で死んでしまうのはこのため 陸上は酸素がたくさんあるので私達はめったに死ぬことはないが、水中で酸素が少ない場合は死んでしまうだろう
肺の場合は血液が流れる順番も違う
肺で酸素を取り入れた血液はまず真っ先に心臓にいく
したがって、アミアなどの肺をもつ魚が長距離を泳ぐときは、ときどき水面にあがってきて空気を吸い込む 酸欠になることが少ない外洋に住んでいても、肺があったほうが良いというのがファーマー説
ただし、この説には反論がある
肺があることによって、そんなに運動能力が上がるのなら、なぜ現在の地球には、肺のある魚より、肺のない魚の方がはるかに数が多いのか
この反論に対する反論もある
魚が肺呼吸をするためには水面に顔を出さなくてはならない
中生代(2億5200万年前~6600万年前)になると、翼竜や鳥が現れ、空中から魚を襲うようになった そこで多くの条鰭類は、肺を鰾に変えて、水中に潜り続けることで繁栄することができた
こういう節は、証拠を見つけて検証することが重要なのだが、それがなかなか難しい
肺の起源に関連したことで、今の時点で確実にいえること
肺が水中でも役に立つこと
肺は水中で進化したこと
遅くとも肉鰭類と条鰭類の共通祖先はすでに肺を持っていたこと